乗鞍ヒルクライムのパワーデータを振り返る パワーデータからわかること Vol.2
ここ数年、乗鞍ヒルクライムの目標タイムは1時間を切ることです。ただし、今年は例年に比べて明らかに仕上がりが遅れてしまったため、現実的な目標タイムは、よくて60分で悪ければ64分くらいになるだろうと考えていました。レース結果は1時間2分46秒でしたので、現実的な予想通りのタイムでした。一方で60分切りには及びませんでした。
前回の記事では、レース直後にパイオニアのスマートフォン専用アプリ「シクロスフィアアナリシス」でパワーデータをチェックしました。
パワーと持続時間の関係
乗鞍ヒルクライムでは、1時間というレース時間の中で発揮できる最大パワーを目指します。まずは、パワーと持続時間の関係を理解しておきましょう。
例えば30分間で250Wを出すことが限界の人は、1時間では250Wを出すことはできません。当然のことですが、持続時間が延びれば、維持できるパワーレベルは下がります。逆に、低いパワーなら長時間パワーを維持できます。
このように、パワーと持続時間は反比例します。ちょうど、定まった容量のタンク(=人の能力)の蛇口をひねって(=パワーを調整)水を出す構造と似ています。蛇口を一気に開放すれば水量は増えますがあっという間にタンクの中の水は空っぽになってしまいます。そこで、自転車ではつねに目標持続時間に合わせてパワーを調整することがポイントになります。
目標持続時間に合わせてパワーを調整することがポイント
乗鞍ヒルクライムのパワーデータ詳細
ここからは、当日のレースデータをより詳しく振り返っていきます。パイオニアが提供しているパソコン上のデータ解析サービス「シクロスフィア」に自動アップロードされたデータをチェックします。ここからは、当日のレースデータをより詳しく振り返っていきます。
今年のレース結果を端的に振り返ると、序盤のオーバーペースにより、レース序盤早々にして集団から離脱するとともに、疲労から大きくパワーを落としてしまいました。ただし、中盤以降はややマイペースを取り戻して、ややパワーを回復させながらゴールできました。中盤以降の粘りの走ができたことで、1時間2分台でまとめることができことがわかります。
上:1秒平均のパワーデータ、下:平滑化したパワーデータ
上のグラフは、1秒平均でパワーを抽出したグラフです。赤線がパワーを示しています。それを1秒平均から90秒平均に平滑化することで、パワー変動の大きな傾向をつかむことができます。
全体の平均パワーは257.6Wでしたが、レース展開を振り返りつつ、区間ごとのパワーをチェックすることで、レース当日のパフォーマンスを分析でき、今後のトレーニングのヒントを見つけることができます。
3つの区間のパワー
今回は、シクロスフィアの地図を見ながら、乗鞍のコースを序盤(スタート~三本滝)、中盤(三本滝~位ヶ原山荘)、終盤(位ヶ原山荘~ゴール)の3つの区間に分けたときのパワーを見ていきます。
ある区間のデータを表示させる方法は、地図の上にあるサイドバーで操作します。バーの端をスライドさせると、地図と連動して区間を表示でき、その時のパワーなどを知ることができます。
サイドバーをスライドさせて区間データを抽出
<区間ごとのパワー>
- スタート~三本滝(6.5km) 17分16秒 280W NP289W
- 三本滝~位ヶ原山荘(7.9km) 27分38秒 243W NP245W
- 位ヶ原山荘~ゴール(4.9km) 17分55秒 257W NP263W
このように、レース後にコースの区間ごとのデータを抽出することが可能です。レース中にわざわざラップボタンも押さなくても大丈夫です。
序盤のパワーが高すぎた
さて、全体の平均パワー257.6Wからすると、序盤のパワーが高すぎることがわかります。単独で淡々と走るヒルクライムレースでは、周囲に惑わされずに我慢することができますが、乗鞍ヒルクライムのチャンピオンクラスは、緩斜面が続く三本滝までの序盤区間を集団に乗ることで集団の利を活かしてパワーをセーブすることが可能です。特に60分切りを目指すレベルでは、この集団を利用することがカギになります。
ところが、今年は、史上まれにみる序盤のハイペースが展開されました。これにより、集団を利用するという思惑は崩れました。それでも、序盤の序盤で集団から離脱することをイメージできていなかったため、やや強度の高さを感じつつもしばらく集団で走っていました。
この区間を振り返ると、スタートからの4分間で338W、10分間で310Wを記録していました。つまり、集団に付いているとは言え、かなりのオーバーペースになっていたことがわかります。
乗鞍ヒルクライム
結果的に、三本滝を通過後、足に疲労を覚えてペースが鈍っていた区間(三本滝通過後の6分間ほど)の平均パワーは228Wでした。序盤のオーバーペースが明らかにたたってしまったことがわかります。
一方でこの低調な区間では、終盤に向けてもう一度立て直そうとしていました。意識的にパワーを落とし、一定強度でマイペースを作り出すことに集中しました。すると、中間地点をすぎたあたりから、パワーが再び右肩上がりになり出し、しっかりペースを刻むことができました。
序盤のオーバーペースのダメージを最小限に抑えつつ、何とか粘りの走りに繋げることはできました。
レース序盤を集団で走る乗鞍ヒルクライムのチャンピオンクラスで走ることの難しさと、パワーメーターを指標にして立て直すことができた中盤以降の走り。今年の乗鞍ヒルクライムでは、来年向けて新たな課題を見つけることができました。この続きは、次回でレポートします。
■記事執筆者:橋本謙司(はしもと・けんじ)
スポーツジャーナリスト。自転車専門誌やランニング専門誌の編集者を経て、現在は、主にライターとカメラマンとして活動。Mt.富士ヒルクライム(一般の部)での総合優勝など、全国各地のヒルクライムレースで優勝多数。愛称は「ハシケン」。ホームページ http://www.hashikenbase.com
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