地形や向かい風に影響を受けないパワー基準のペースコントロール

「スピード一定」から「パワー一定」の走り方に変えよう
前回は、自転車におけるパワーについてのおさらいと、初心者にとってのパワーとの付き合い方について紹介しました「(こちら:前回リンク)」。今回は、実際にロングライドでのペース配分(ペーシング)の機能としてのパワーメーターの活用術を紹介します。
そもそもなぜペーシングの指標にパワーが優れているのでしょうか。よくロングライドに挑戦するとき、「時速25kmを目標に走れば100km完走できる」などと、スピード(速度)を目安に考えがちです。ところが、スピードは、地形や風向きによって変化しやすいのです。
たとえば、速度32kmで平地を走行しているときのパワーが200Wだったとき、勾配が5%上がるだけで、時速32kmをキープするには500Wものパワーが必要になります(体重70kgの場合)。つまり、スピードを一定に走ろうとすると、身体にかかる負荷は大きく変動し、結果的に疲労が蓄積してしまいます。
速度一定で走った場合の平地と坂道でのパワーの違い
上り坂と同様に、向かい風のシーンでも同じ。無風条件では200Wで時速32kmをキープできても、風速2mの向かい風が吹くだけで280Wが必要になるのです。
向かい風でのパワーの違い
ロングライドでは地形や風向きの変化が頻繁に訪れるため、速度はペース配分の指標には適しているとは言えません。
一方で、ライダーがクランクに伝える力を測定しているパワーは、地形や風向きに左右されない絶対的な仕事量。そのため、パワーを一定にして走ることで身体の負荷変化を抑えることができます。このように、「パワーの一定走行」がロングライドでは適しているのです。
ロングライドのイメージ
ロングライドで超えてはいけない限界ライン「FTP」
つぎに、一定走行時に目標とすべきパワーを決めていきましょう。当然このパワーはライダーの能力によって異なります。ここで登場するのがFTPという基準値です。これは、言わばサイクリストの有酸素運動能力を把握する基準です。
低強度(有酸素)運動から高強度(無酸素)運動へと切り替わるポイントを示し、FTPを超えると急激にパフォーマンスの持続が難しくなります。そのため、長時間運動のロングライドでは、FTPよりも低い強度で走り続けることが大切なのです。
苦しいFTPテストをしなくても実力がわかる
さて、長時間ペースを維持できる強度の上限=FTPを知るためには、いわゆるパワートレーニングの世界では、1時間の全力走を行うことで正確なFTPを測定しています。ただ、そもそもロングライドなどをマイペースで楽しんでいるサイクリストにとっては、苦しいトレーニングは避けたいもの。そのようなファンライド層のサイクリストをサポートするものが、過去の走行データから推定FTPを算出してくれる機能です。パイオニアのパワーメーターにはMMPグラフという優れた機能があるのです。
MMPグラフからロングライド時のパワーがわかる
パイオニアのデータ解析Webサービス「Cyclo-Sphere(シクロスフィア)」で展開されるMMP(Mean Maximal Power)グラフからは、様々なデータが読み取れます。注目したいのが、過去のある一定期間の走行データから、時間あたりの持続可能な最大平均パワーを表示してくれる点です。たとえば、15秒間の短時間運動で出せる最大パワーが700W、5分間出し続けられるパワーが240Wという具合です。1時間を超えるロングライドでは、60分間の最大パワーを自身の限界パワーの目安にできます。この場合、200Wを超えないパワーで走ることがロングライドでバテないための目安のパワーと言えます。
MMPグラフのイメージ
なお、この1時間持続できる最大パワーが推定FTPとなり、20分間の最大パワーの95%の数値も同様です。
■記事執筆者:橋本謙司(はしもと・けんじ)
スポーツジャーナリスト。自転車専門誌やランニング専門誌の編集者を経て、現在は、主にライターとカメラマンとして活動。Mt.富士ヒルクライム(一般の部)での総合優勝など、全国各地のヒルクライムレースで優勝多数。愛称は「ハシケン」。ホームページ http://www.hashikenbase.com
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