パワーと心拍数の違いと賢い使い方
感覚よりも科学的な指標で負荷を把握できる
パワー(出力)も心拍数も、サイクリストの運動負荷を表す数値です。客観的な数値で身体にどのくらいの負荷がかかっているのかを知ることで、自身の感覚だけで走るりも正確にペースコントロールができるようになります。
今から10年ほど前までは心拍数をベースに運動負荷をチェックしながら、レース中のペース配分やトレーニングメニューを組み立てていました。ところが、パワーメーターの普及によって、パワーがトレーニングはもとよりロングライドでのペーシングにも欠かせない存在になっています。
絶対的でリアルタイムに表示されるパワー
まず、パワーと心拍数の違いはどこにあるのでしょうか。心拍数とは、運動によって身体にかかる負荷を拍動数で表しています。つまり、運動に対する結果です。対してパワーは、運動強度そのもので、ペダルにどれだけの力が加わっているかを表します。つまり、ライダーのパフォーマンスを表す絶対的な数値がパワーなのです。一方で、心拍数は、体調や気温や風向きなどによって変化しやすく、メンタル面にも影響を受けやすいという特徴があります。
また、数値の特徴として、パワーは運動負荷をリアルタイムに表示できる一方で、心拍数はワンテンポ遅れて負荷が表示されます。例えば、ゼロ発信で5秒だけ全力でペダルを踏んだとき、パワーは400Wや600Wなど即座に表示されます。一方で、心拍数はいきなり180拍(bpm)をマークするようなことはないはずです。ペダルを踏みやめたあとから、徐々に心拍数の上昇が確認できるでしょう。
パワーと心拍数の違い
あらゆるフィジカル要素を把握できる
このように、パワーメーターはわずかな運動負荷の変化も把握できるため、インターバルトレーニングなど短時間運動のパフォーマンスの把握に最適です。ロングライドでも、わずかな負荷上昇をチェックしながら、一定負荷をキープしながら走り続けるためのツールとしてオススメです。心拍数も、中程度時間以上走り続けるヒルクライムやロングライドのペーシングツールとしては利用できますが、パワーデータからは、心拍数だけではわからない多くの情報を読み取ることができます。
例えば、パワーデータは、ライダーのパフォーマンスをワット(W)で表すため、ライダーの能力向上(成長)を明確に示しくれます。そして、万人に共通の客観的な数値であるワットは、あらゆるライダーの中での自分自身の能力レベルを知ることもできます。時間ごとの平均出力を示すパワー・プロフィールからは、その人の脚質タイプまでわかります。
このほか、日々蓄積したパワーデータからは、トレーニング・ストレス・スコア(TSS)やトレーニング・ストレス・バランス(TSB)といったライダーのトレーニング負荷やコンディショニングに役立つデータも抽出できます。フィジカルの側面だけでなく、効率的なペダリングスキルの習得にもパワーは役立つなど、パワーメーターは様々な面で活用できるのです。
パワーと心拍数を合わせてチェックしよう
最後に、パワーデータに加えて心拍数も活用することをオススメします。単純に出力を見るだけでなく心拍数と合わせて見ることで、記録されたパワーが、どれくらいの負荷レベルで発揮されたものなのかを知ることができます。
心拍数は、体調や気温によっても変化するため、それらを含めた上でのその時の身体の負荷レベルがわかります。同じパワーでも、体調が良ければ心拍数は低くなり、フィジカルレベルが上がっていても心拍数は低くなります。
このほか、安静時心拍数をチェックすることで、仕事をしながらトレーニングを行なっているサラリーマンライダーは、日々の体調の変化に合わせて無理をすることなく日々のトレーニング内容を決めることもできます。
パワーメーターが最新のトレーニングディバイスであることを疑う余地はありません。そこに心拍数も加えることで、より身体の声に耳を傾けながらトレーニングができるようになるのです。
■記事執筆者:橋本謙司(はしもと・けんじ)
スポーツジャーナリスト。自転車専門誌やランニング専門誌の編集者を経て、現在は、主にライターとカメラマンとして活動。Mt.富士ヒルクライム(一般の部)での総合優勝など、全国各地のヒルクライムレースで優勝多数。愛称は「ハシケン」。ホームページ http://www.hashikenbase.com
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